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「でもやっぱり大事なのは性格とか、その人の醸し出す雰囲気とか、どのくらいフィーリングが合うかとかだよね。だって、女の子はいくらでも綺麗になれるんだから」
「うん、そうだよね……」
景が絶品だという湯葉が出来る度に、箸で掬って、わさび醤油をつけて食べた。
サッパリとして美味しくて、何個でもいけた。
そういえば瞬くんと俺って、どのくらいフィーリングが合っていたのかな。
今思い出すと、嫌われないようにしなくちゃってそればかり考えていた。
少し無理をしていたような気もするけど、あの頃の俺は若すぎて実際どうだったのかは覚えていない。
ボンヤリしていた俺の顔を、景が顔を傾けて覗き込んでいるのに気が付いて、慌てて仕切り直して背筋を伸ばした。
「な、何?」
「僕、修介の事好きだな。修介がもし女の子だったら、僕の彼女にしてたかも」
顔に熱湯を注がれたみたいに熱くなる。
彼は特に照れるような素振りも見せず、湯葉を箸で掬って俺の皿に入れてくれた。
もし女の子だったらって……それって、俺の事少しでも気に入ってくれたって事かな?
「修介と話してると、やっぱり落ち着くよ。翔平みたいに馬鹿やるみたいな奴も好きだけど、一緒にいて心が安らげるかが大事だよね」
この人は、日頃から心の中で思っている事を、ストレートに言葉に出して相手に伝えている人なんだろう。だからこうやって素直に心に沁み込んでくるんだ。
翔平の言ってる事は強ち間違いでは無かったのかもしれない。
真面目で誠実で──ちゃんと、一人だけを見てくれる人。
「あっ、ありがとっ」
景に会えて良かったとか、自分も景と話してると落ち着くよとか、頭の中ではいろんな感謝の気持ちが駆け巡っていたけど、羞恥のあまり、どれも言葉になって出てくる事は無かった。
充実した時間を過ごした俺たちは、終電が無くなる前に席を立った。
また連絡するね、と言って彼は颯爽と裏口から出ていった。
(芸能人ってだけでチャラチャラしてると思うてたけど、ホンマはええ人なんやな)
俺はほろ酔いのまま、上機嫌で電車に乗り込んだ。
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