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──side景──
自宅マンションに着いて、リュックをダイニングテーブルの椅子に置いてからジャケットを脱いだ。
なんだか体中が熱い。少し飲み過ぎてしまったようだ。
修介と二人で話せて、楽しかった。
翔平から聞かされていた以上に、まるで女の子のように綺麗な顔で、人懐っこくて、それでいてどこか魅力的だった。今まで僕が親しくなる友人のタイプとは少し違う。
何処が違うのかはハッキリとは分からないけど、これからもっと修介の事を知っていきたい。そんな気持ちが胸の内にある。
ミネラルウォーターのペットボトルを取り出そうと、冷蔵庫のドアを開けた時だった。
幸福な余韻に浸るのを遮るように、ポケットのスマホが振動を始めた。
「……はぁ……」
ペットボトルを取り出すのは諦めて、冷蔵庫のドアを閉めた。
さっき、タクシーの中で確認した着信履歴の数。呆れて、こちらから連絡するのを躊躇っていた。
そろそろ出ておかないとますます厄介だなと思い、ポケットからスマホを取り出した。
「もしもし」
『もしもし、景!? やっと出た! 全然繋がらないから心配しちゃったよ!』
こちらとは明らかに違うテンションで話してくるから、酔ってあまり回らない頭に、南の高い声がやたらと響く。
「だから、南に前から言ってあったでしょう? 今日は友達と飲んでくるからって」
『そうだけど、あまりにも遅いから、浮気でもしてたらどうしようって』
僕はこっそり溜息を吐く。
南とは、雑誌の撮影で一緒になって知り合った。それから二人きりでは無いがよく会うようになって、しばらくしてから南の方から告白された。
ショートヘアが似合う、知的でカッコいい女性だと僕は思っていたのだが、実際は元彼に浮気をされて、僕にもいつかされるんじゃないかとビクビクしているか弱い女性だった。
「しないって。電話遅くなった事は謝るよ。ちょっと盛り上がっちゃって」
『本当に、男友達だよね?』
「そうだって」
なんとか南を宥めて、電話を切った。
最近、こんな調子だ。少し連絡が取れないと、どこにいるか、何をしていたか、逐一聞いてくるようになった。
最初は愛情表現かと思っていたけど、限度を超えている気がしてならない。
『何も無かったら無かったで、寂しくなるんちゃうの? 愛されてる証拠やんか』
修介に言われた言葉がふと頭の中に響いた。
もちろん彼女の事は好きだ。
尊敬し、学ぶ部分も沢山ある。
でも、疑われる度にこの胸に残されていく爪痕は徐々に大きくなっている。
もう、終わりにした方がいいのかも。
改めて冷蔵庫からペットボトルを取り出してキャップを回し、喉を潤した。
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