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「……なんて、こんな話したのも久し振り。こんな事、彼女にも話してないし。どうしてだろう。修介には何でも話したくなっちゃうんだよね」
何でも、と聞いて俺は表情を少し固くした。
そんなに俺の事をいい友達だと思えて貰えて凄く光栄だし、嬉しい。
けど、俺は景に話していない事がある。
それを言ったら、この人はどう思うだろうか。
翔平のように適当に返事するような人とは思えない。
もう随分と打ち解けたと思うけど、やっぱりまだ怖かった。
「う、ん。俺も、なんか景といると落ち着くし、何でも話したくなるよ?」
そう言うと、景は嬉しそうに唇を横に引いて頬杖をついた。
そのまま左手首に嵌めている腕時計を見て、そろそろ行こうか、と支度を始めた。
レジで会計を済ませようとしていた時、六人がけのテーブル席に座る女の子のグループが、何やらこちらをチラチラ見ながら小声で話していた。
俺たちはその視線に気付いたけど、平然を装ってレジでお金を支払っていた。
でも突然、そのグループの女の子の一人が、藤澤 景だ! と大声で叫んだ。
途端に黄色い声が店中に響き渡ってしまう。
ギョッとした俺は、どうしたらいいのか分からず、アワアワと女の子達と景を交互に見ながら立ち竦んでいた。
景がパッとサングラスを取って、女の子達に甘いマスクでにこりと笑いかけると、店内がますますパニックになった。
何台ものスマホが俺たちに向けられていて、異様な状況に耐えられないでいると、景が急に俺の手首を掴んだ。
「逃げようっ!」
「えぇっ?!」
景はまるでこの状況を楽しんでいるかのように悪戯っぽく笑うと、俺の手を引いて、エレベーターの脇にある階段を勢いよく駆け下りた。
引っ張られて、脚がもたついて何度も転びそうになったけど、後ろから誰かが追ってくる気配は無かった。
(な、なんか、青春ドラマみたいやなぁ……)
街を駆け抜けながらすれ違う人達を見ていたけど、走っているから声を掛けられる訳でもないし、振り返ったりする人もいなくて、目の前にいるこの人が景だという事はバレていないようだった。
コインパーキングに止めていた景の車に乗り込んで、ようやく一息つけた。
二人とも、笑いが止まらなかった。
「あーびっくりしたー! ホンマ芸能人って大変やなぁ!」
「フフ、ごめんね。やっぱりバレちゃった」
外は針刺すような肌寒さなのに、走ってきたせいで体中が熱くて、じんわりと汗をかいていた。
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