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俺はあの後、どうやって家まで帰って来たのか覚えていない。
いや、チャリでいつもの道のりを真っ直ぐ帰って来たはずだけど。
玄関に入り、母の挨拶も無視して二階へ上がり、部屋のベッドに勢いよく沈み込んだ。
枕に顔を埋めて泣こうとしたけれど、涙の一滴も出なかった。
俺は馬鹿だ。
今更、瞬くんとエッチした時にふと言われた言葉を思い出した。
『もしかして初めて?』
瞬くんは、初めてなんかじゃ無かった。
俺以外の人と、同時進行で他に二人ともエッチをしていた。
しかも、俺にとってあんなに痛かったエッチは、他の奴らは痛くないらしい。
衝撃の二番目発言(エッチは三番)の後、俺の中で少し時が止まって、ゆっくり彼の腕から手を引いた。
何故俺以外の人とも付き合っているのか、別れる気はないのか、覚えて無いけどそんな事を聞いた気がする。
でも彼の発言はまるで宇宙のようで、俺は狐につままれたような顔で瞬くんの整った顔をポカンと眺めるしかなかった。
『だってしょうがねーじゃん。全員俺の事好きなんやから。俺が何人と付きおうてようが、修介には迷惑掛けてへんし、みんな俺の事好きで、俺やってみんなの事好きやのに、なんで別れないとあかんの? そんなん考えてへんよ』
部屋のドアがそっと開くと、家で飼っている猫のニャム太がこちらにトコトコやってきて、俺の上半身にピョンと飛び乗った。
俺は体を起こしてニャム太を両手で抱き上げる。
ニャム太は可愛い。
マンチカンだから、胴長で短足だ。陽気で甘えん坊。脚長でクールなイケメン瞬くんとは正反対。
でも、好奇心旺盛なところは似ているかも。
だって三人と同時に付き合うなんて、然う然う出来たものじゃない。
瞬くんみたいに格好いい人って、自分で何もしなくても、勝手に人が集まって来るんだろうな。
瞬くんが蜜を出す木で、俺たちはその甘い匂いに誘われてたかる蟻のように。
「ニャー」
俺は可愛く鳴くニャム太の顔を見ながら決心する。
勢いよくニャム太の顔をぐいっと引き寄せると、ニャム太は目を見開いて驚いていた。
「ニャッ?!」
「ニャム太……俺、決めた……」
もう!! イケメンは!! 好きにならない!!
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