第1章【1】

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「はじめまして、矢口翔平です! 今日から宜しくお願いします!」  店長に連れられてやってきた翔平は、ヒマワリのようにニカッと笑って自己紹介をした。 「俺は北村修介です。これから宜しくー」 「はいっ! 宜しくお願いしますっ!」  こちらが名乗ると、そいつはさらに声を強めて挨拶をした。  第一印象は、いい奴そう。  髪も金髪に近いくらいの明るい色で、パーマなのか、毛先がウェーブがかっている。  丁寧に眉毛も染めていた。  笑うと目が垂れて、優しく見える。  身長もまあまあ高い。180センチはありそうだ。  翔平の顔は整っていて、いわゆるイケメンというやつだ。  好きにならない部類だ。  店長は激励するように翔平の背中を叩いて、俺にハンディを手渡した。 「北村くん、矢口くんの指導お願いできる? 今空いてるから、バックヤードでハンディの使い方とか教えてくれてもいいし」 「はい、分かりました」  店長に言われたように、二人でバックヤードに入り、翔平に使い方を教えながら世間話もした。 「矢口くんって、大学生?」 「あ、はい! 大学三年で、すぐそこの大学に通ってます」 「あっ、俺も同じ大学の三年だよ。社会学部」 「ヘェー? 会った事無いですね! 俺は経済学部だからですかね?」 「学部違うと授業も大分違うもんね。あ、タメなんだし、タメ口でいいよ?」 「マジで? やったー!」  俺は思わず吹き出した。  また先ほどみたいに口を大きく開けて、ヒマワリの笑顔で答えたからだ。  (切り替え早すぎ。面白いからいいけど) 「北村くんは、関西出身なの?」 「へっ? 分かる?」 「うん。なんかイントネーションが」 「やっぱ隠せないもんだね。和歌山だよ」 「ヘェー! なんでそんな遠いとこからこっちに来たの? 大学デビュー的な?」 「……うん。まぁそんなもん」 「ヘェー、じゃあ一人暮らししてんだ? カッコい~!」  ヘェーが多い奴だなぁと思いながら、いろんな話をした。  翔平は実家暮らしで、大学へは自転車で二十分もかからないこと。  これまでコンビニ、ピザ屋、工場、ティッシュ配り、様々なバイトを転々として来たこと。  もったいないくらいの美人な彼女がいて、最近初エッチをした事。  聞いてもない事もどんどん話すから、翔平といると楽しかった。実は俺は人見知りだから、慣れるまで多少時間がかかるけど、翔平は特別だった。  その日のバイトが終わる頃には、お互いを名前で呼び合っていた。
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