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先に口を開いたのは朝日さんだった。
「ごめんね、高志君。心配事って、私のことだよね。
私が儀式のこと言わなかったから」
「いや……まぁ、でも僕が朝日さんなら、こんな頼りない奴に言いたくないかな、って」
「頼りなくないよ。
ていうか、怒ってないの?」
僕は笑った。
「今はそれより嬉しい、かな。
朝日さん、ようやく目を合わせてくれた」
朝日さんはびっくりして、少し黙った。
「……やっぱり、あの人とは違うよね」
「あの人?」
「高志君に言っていないことがあるの。
元彼のこと」
朝日さんはうつむいたまま、言葉を紡いだ。
「彼とは、この儀式が元で別れたの。
丑の神様から寅の神様へと引継ぎをする年で、彼とは婚約してた。前もって儀式のこと言ったけど、彼は冗談だと思ってたみたい。
お父さんと三人でお清めの儀式をしようと、寅の神様に対面したとたん、彼、私の後ろに隠れたわ。
『食うならこいつを食ってくれ! 俺はここの人間じゃない、見逃してくれ』ってね」
「そんな……」
「慌ててお父さんは私達を外に出したわ。その後も『お前の家は普通じゃない! あんな化け物相手に、なにがお清めだ』って言われて、彼は逃げるようにして私を置いて帰って、それきり。
高志君はあの人とは違う。でも、また前みたいなことがあったら、って、昨日からずっと言い出せなかったの。ごめんなさい」
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