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「そうだったんだ。それは……言い出しにくかったね。
話してくれてありがとう。心のつかえがとれたよ」
なるべく安心してもらおうと思って笑顔を見せると、朝日さんはなぜだかけげんな顔をした。
「なんでそんなにいい人なの」
「うーん、朝日さんを愛しているから?
僕は君と結婚して幸せなんだ」
朝日さんの頬に、手をふれる。
「朝起きたら朝日さんがいて、夜寝る前も隣にいる」
この手のぬくもりも、君と一緒に日々を過ごす嬉しさも。
ドタバタして帰る途中、君の好きなお菓子を買って帰ったり、早く帰れた日に顔を思い浮かべながらごはんを作ったり。君が育てた観葉植物に小さな花が咲いたり。
そうした毎日の積み重ねが続いていくことが、心の底から嬉しいから。
「これからもいいことばっかりじゃなくて、大変なこともあるだろうし、儀式も予想外だったけど。
辰の神様は……大きくてびっくりしたけど、話せば優しいし。
何より朝日さんと一緒にいられるなら、なんてことないです」
「もう、馬鹿」
朝日さんがぶつ真似をする。僕はその両手をとる。
こういう時朝日さんがどんな顔をしているか、僕は知っている。
満面の笑みではなくて、どうしたらいいかわからない表情をしていて。
でも心の底では嬉しいから、頬が赤らんで、いつもキリリとした視線はやわらぎ、僕を見上げている。可愛いなぁ。
本当に、君と一緒にいられるなら、こんな不思議な空間の中でさえ、僕は幸せを感じられる。
片方の手をほどき、朝日さんの腰を抱く。そのまま引き寄せて、唇が近づいて――。
こほん、と咳払いが響いた。
「そろそろ儀式の続きをしてもらおうかね」と辰の神が苦笑いしながら言った。
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