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出迎え
翌日、僕は妻の朝日さんとタクシーに揺られていた。
新幹線と電車を乗り継ぎ、どんどん景色が変わり、今走っているのは完全に山の中だ。店もあまり見かけない。
朝日さんは運転手さんと話が盛り上がっている。地元の誰それがどうしたとか。タクシー乗り場でおじさんが僕らを見るなり、
「朝日ちゃんか! いやーべっぴんさんになって!」と話しかけてきて、朝日さんが「えへへへ」と得意顔をして、そこからずっとアウェーである。
「それにしても旦那さん、優しそうな人だねぇ」
「ありがとうございます」
他に褒めるところがない時に「優しそう」って言うんだよな、なんて思ってしまう。昨夜の部長の愚痴モードにあてられてしまったんだろうか。
まあそれもやむを得ない状況ではある。
世間はクリスマスだというのに、朝日さんの実家はこの時期毎年大掃除をするそうだ。気が重い。
「いやしかし結婚できてよかったわ朝日ちゃん。正直、お婿さんは大変やわーって思ってたんよね。家業が家業だからね、ただでさえ神社ってだけで三が日忙しいのに、その前にこうやって『お清めの儀式』があるじゃろ」
「え?」
儀式?
「僕、大掃除するって聞いてきたんですけど」
隣の朝日さんを見る。今日も綺麗な黒髪ロングヘアの年上美人さんは、直前まで盛り上がっていた笑顔のまま、固まっている。
「あれ、朝日ちゃん言ってないの? ほら、十二支の神様を」「あっ、おじちゃんそろそろ着くねぇ!」
大きな声でかぶせるようにして、朝日さんは話を遮った。
タクシーが停まる。
大きな鳥居の前。白い着物に紫色のはかま姿で朝日さんのご両親が出迎えてくれた。ぎょっとしたのは、お義父さんが杖をついていたからだ。
「お義父さん!? 大丈夫ですか?」
「あーよく来てくれた高志君。すまんねホント。今年の儀式は私達だけでやるつもりだったのにぎっくり腰でね、うん、ホント申し訳ないね」
「はぁ、それはいいんですけど、なんですか儀式って」
「あれ、朝日から聞いていないのか」
朝日さんを見る。「うふふ」と首をかしげて満面の笑み。そしてすかさず「お父さんお母さん、東京駅のばななのお菓子買ってきたよ」と紙袋を見せる。
「おお、東京駅のばななのお菓子か」
「おいしいわよね、東京駅のばななのお菓子。お茶にしましょうか」
一礼して鳥居をくぐり抜ける義両親と朝日さん。
「あの、儀式ってなんですかー?」
僕は慌てて後に続いた。
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