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儀式の話とティータイム
「ええと、要するに……」
社務所奥の応接コーナー。ややもすれば話題が東京のお菓子に流れそうなところを、僕はどうにかこうにか、「儀式」の概要を聞き出した。
「この干支神社には、十二支の社があって、そこに祀っている神様のお清めを毎年クリスマスの時期にやっている、と」
「そうそう」
お義母さんがニコニコしてうなずく。
「明日は全国あちこちで干支の引継ぎ式があるのよ高志くん。その前にね、うちでは来年の神様を綺麗にして見送って、引継ぎ式の後は今年の神様を『お疲れ様でした』って綺麗にするの」
「頭が痛くなってきました……まるでファンタジーの世界じゃないですか……マジで言ってるんですよね?」
「うん、マジマジ」
「その軽さがうさんくさいんですけど……」
ちらりと朝日さんを見る。儀式のことになると朝日さんは話をそらすし、今日は僕と目も合わせてくれない。
「そんなわけで、明日は辰の神がいらっしゃるからお清めの儀式をしてくれ。あの神様はどうにも扱いがめんどく……いや、一等気を遣うからな、がんばってくれ」
「今めんどくさいって言いませんでしたか」
「まぁ、頼むよ」
「さぁさ、今日は高志くんも疲れたでしょ。母屋に荷物置いてらっしゃい。もう少ししたら晩ごはんにするから」
僕達は社務所裏から、細い道を通って母屋に向かった。
「朝日さん、どうして儀式のこと言ってくれなかったんですか」
「……ごめんね」
目をそらす朝日さん。顔は引きつり、どんよりと空気が重い。
そんなに大変なんだろうか。
荷物を置いてすぐ、朝日さんは「晩ごはんの支度手伝ってくる」と出て行ってしまった。朝日さんの実家はやたら広い。
ようやく見つけたトイレを出たところで、「おぅい、母さんビールだぁ」というお義父さんの声が聞こえた。
「お清めの儀式担当、無事にバトンタッチしたからなぁ、お祝いだぁー」
廊下を通る後ろ姿を見て、僕は目をむいた。
お義父さんは、杖なしでスタスタ歩いていた。
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