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救いの声
「すみません、嫌なことを思い出させて……」
「あぁやだやだ辛気臭い。なんかいい話の一つや二つないのかい」
「いい話……」
僕は必死に頭を回転させる。
辰の神。空想上の生き物。十二支で唯一、実物の動物がいない。
どこかで辰について、話を聞いた覚えがあるんだけど……。
するとその時、スマホが鳴った。
「あわわわわ、すみません」
僕は慌てて袴のポケットを探る。龍はため息をついた。
「こういう時はマナーモードにしておくもんだ、気が利かないね」
「すみません」
「いいから出な。先方を待たせるんじゃないよ」
あ、出ていいんだ。
着信相手を見て、僕は首をひねったけど、電話に出てみた。
「部長、何かあったんですか?」
「ん? その声は田中君……じゃなかった千家君。
ごめん、間違えてかけちゃったみたいだ。休みの日に申し訳ない」
「いえいえ……」
そこで思い出した。
「そうだ部長! 部長って来年年男でしたよね?」
「そうだけど」
「昨日考えていた新年会の挨拶も、辰にちなんだものでしたよね?
あれすごくよかったんで聞かせてもらっていいですか?」
「なんだい急に……。ま、いいけどさ」
スピーカーモードにする。画面を向けられた龍が目を丸くした。
「えー、私は辰年ということでね、実在の動物ではないんですが、龍は昔から縁起が良いし『私の年がきたー!』と気合が入るんですねぇ。
龍ですよ龍、ドラゴン。かっこいいでしょう。
本年も登り龍のように、ぐんぐん成長し、ぐんぐん業績アップして皆様のお役に立ちたいと思います。
お役に辰ぞぉー!
さて、ここで一曲、ドラゴ〇ボールの主題歌を」
「あ、そこまでで大丈夫です。ありがとうございました」
「えっ、ちょっ」
僕は電源をオフにした。
「……あの、いかがでしょう、今のお話」
「ふん、まあ、聞かないよりはマシだったよ」
そう言いつつも、ヒゲがうねうねとリズミカルに動いているのを見ると、どうやらご機嫌をとれたらしい。
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