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馴れ初め
「ところで朝日とはどうやって知り合ったんだい」
僕は朝日さんに目をやる。彼女は遠くで、龍の体を拭いている。
「春に、友達の紹介で知り合ったんです。僕はこの通り大人しくて頼りない男なんですが、朝日さんはすごくしっかりしてて、明るくて、僕を引っ張ってくれて……こんな人と一緒になれたらな、って思ってました。
結婚できて本当に幸せです」
「その割に、さっきはあたしを見て驚いていたが、儀式のことは聞いてなかったのかい」
「実家で大掃除をする、としか」
昨日からの流れを思い出し、ため息が出てしまう。
「おおかた言い出せなかったんだろうね。普通の人間には馴染みがないものだから。
あの子はしっかりしているけど、悩みを一人で抱え込むからね。
小さい頃から、ずうっと変わらない」
「え、でも会うのは十二年に一度なんじゃ」
「他の干支神が教えてくれるのさ。またあの子が大きくなったよ、学校を卒業したよ、都会で働き始めたよ……ってね」
「そうですか……」
親戚みたいだな、と思った。僕は義両親より、いや実のところはあのタクシーの運転手より、朝日さんのことを知らないのかもしれない。
「手が止まってるよ」
「あ……すみません」
僕はまた温泉に手ぬぐいをつっこんだ。
絞ると、ほんわりと湯気が白い空間にあがっていく。
「僕、頼りないから、こんな大役、事前に聞かされたら逃げ出すと思われてたんじゃないですかね。
――信用、ないのかな」
「ふん、この神社の式で誓ったんじゃないのかい。助け合い励まし合いながら夫婦として頑張っていきます、って」
「誓いましたけど……」
龍は息を吐き、「ああもうまどろっこしいねぇ」と口の端でつぶやいた。
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