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侵入者
俺はあたりを見回し、扉に手をかけた。
「よいしょっ……と」
錆びたドアがきしむような音をたててスライドする。
廃工場内にオレンジの光が差した。一歩進むとほこりが舞う。天井が高い広い空間の下、大小さまざまな機械が音もなく眠っている。
壁に沿って、奥の階段を目指した。静かすぎてスニーカーでも足音が響く。
階段を上り切ると平坦なスペースがある。座り込むと、工場内が見渡せた。
リュックから荷物を取り出す。水筒にタッパー、白い紙袋。まずは一服して、それから――。
誰も来ない廃工場。思索の時間はたくさんあるはずだった。
だが。
階下でギィィ……と扉の開く音がした。
どこかに隠れようかと思ったが、じじいだからとっさに動けない。若い頃のようにはいかないのだ。
しかしそれは、下にいる人間も同じだったらしい。
「ああくそ、膝にくるな……」
顔は遠くて見えない。が、ぼやく声に聞き覚えがあった。
よく響く、しわがれた声。
「おい! そこにいるんだろ隆行!」
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