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離れに入って驚いた。
元々ここは、娘に作った勉強部屋だ。だがまるで様変わりしていた。壁のコルクボードには銃が、タンスの上には膝当てやゴーグルが飾られていた。
「これ、どうしたんだ」
「銃とか道具はお父さんからのお下がり。コルクボードはおばあちゃんに100均で買ってきてもらった」
「お父さん、サバゲーやってたんだな」
サツキはこくり、とうなずく。
稔太に見せてもらった受付名簿には、サツキの名前があった。そして、保護者の同意書にあった署名は、サツキの父親のものだった。
「お父さん、若い頃やってたんだって。
私が興味を持ったら銃をくれて、夏休みの間にイベントにも連れてってくれたの。でもたまたまその姿をクラスの男子に見られて……出校日に『狂暴な女だ、気にくわないことしたら撃たれるぞ』って言われた。噂がずいぶん広まって、知らない子からもひそひそ言われるようになったの。
夏休みが明けて、行かなきゃ、って思ったけど、家からどうしても出れなくて……それで不登校に」
「……そうだったのか」
「学校に行って、また同じような目にあったら、って怖かった。怖くて、サバゲ―のこと考えてる時だけが楽しくて。
こっちでイベントがあるって聞いて嬉しかった。気分転換になるかも、勇気をもらえるかもと思って、楽しみにしてたの」
サツキの目にたまっていた涙が、急にあふれだした。
「でもおじいちゃんに『不登校の理由を言いなさい』って言われて、怖くて、クラスメイトに重なって見えて……。
おじいちゃんは心配して言ってくれたのに、私全然気持ちの整理つかなくて……ごめんね、ごめんなさい」
サツキの頬に、涙がつたう。
俺は孫の肩に手を置いた。
「じいちゃんは今日、廃工場に行ってよかったよ。
知らなかったら、さらにサツキを傷つけていたかもしれない。
それに、あんなにかっこいいサツキを見る機会があってよかったよ」
「おじいちゃん……」
俺はそばにあったティッシュを持ち出して差し出す。涙をぬぐい、鼻をかんだサツキは、赤い目と頬で、でも嬉しそうに「へへっ」と笑った。
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