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「実はな、最近このへん一帯の地主に声をかけている業者がいる。俺のところにも来た。土地の買い占めがうまくいったら、数年後大型商業施設が経つんだと」
「……そうか、売るのか」
「ほっといても税金はかかるからな。更地にする金は向こうが持ってくれるというし、悪い話じゃないと思ってる」
「……」
工場がなくなる。あたりの景色が変わる。
それは寂しく感じられ、俺は細くため息をついた。
「そういや、サツキちゃんは最近どうだ?」
俺は頭をかいた。
「ロクに話していない。難しいんだ。俺がガキの頃なんか、学校は行くのが当たり前で、なにも考えていなかったんだがな……。
一度それを言ったら、口を聞いてくれなくなった」
孫のサツキは不登校児だ。夏休みからずっと中学校を休んでいる。「環境を変えたらいいかもしれない」と娘婿が言い出し、10月からうちに預けられた。今は敷地内の離れに住んでいる。
妻の佳代とは仲良くして、勉強も家事もしているが家から出ようとはしない。
「……まあなんだ、続きは俺の家で話そうぜ。ここは埃っぽい」
稔は階段を降り、俺も後に続いた。
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