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サバゲー
当日、俺は鯖ゲー開始二時間前に現場についた。
結局あれからサツキに謝る機会はなかった。ずっと避けられている。佳代に取り持ってもらおうとしたが、「純心に会える!」とすっかり舞い上がっていて、俺の事などおかまいなしだ。
部屋をこっそりのぞいたら、手作りのうちわとはっぴを作っていた。佳代を手伝うサツキも楽しそうだ。
「夢中になれるものがあるならいいか」と、そっとふすまを閉めた。
今朝、稔夫婦が佳代を迎えに来た時はサツキも手を振って見送ったが、その後はさっさと離れに引っ込んでしまった。
――まあいい。この鯖ゲーが終わってからも時間はある。サツキの話をちゃんと聞こう。
俺はすべての扉と窓を開けた。工場内を風が通り抜ける。
危ないものはないか、床を確認して、資材置き場のシャッターも開ける。
門を開けると、すぐ一台の車が入り込んできた。男が一人降りる。俺はぎょっとした。
上下迷彩服にメガネの男。
自衛隊かと思った。
「隆行さん! ごぶさたしております、稔の息子、稔太です!」
男はぶんぶん手を振っている。
「お前……おっさんになったな」
迷彩服の上からでもわかるくらい、お腹が出ている。頭の中に描いていた堅物イメージが音を立てて崩れていく。そういや前に会ったのは何年も前だ。
「いやー! 今日はありがとうございます!
母の用事でダメになるかと思いました!」
両手を握られ、ぶんぶん振られる。「お、おう……」と気圧される俺。
「立ち会うくらいしかできないが」
「いえ、全然いいんです!
あ、あっちにテーブル広げていいですか? 受付を作りたいんで」
稔の息子――稔太は車から折りたたみのテーブルと椅子を出した。そうこうする間にも駐車場には車が停まり始め、俺は誘導に忙しくなった。
鯖ゲーにはどんな人種が参加するんだ、と思っていたが皆礼儀正しい。「こんにちは」「今日はよろしくお願いいたします」とわざわざ挨拶してくれる。見た目は皆変わっているが、人の良さそうな笑顔を浮かべていて、俺は好感を持った。
だいたい落ち着いてきたかな、と稔太のところに戻ろうとすると、今しがた受付を終えた小柄な女性に目がいった。上下とも黒いジャージを着ていて、開始時間までずいぶんあるのにもうゴーグルをつけ、口まで布で覆っている。珍しいな、と見ていたらすぐ他の参加者に紛れてしまった。
駐車場では見かけなかった。バスで来たんだろうか。
「全員そろったし、そろそろ始めますね」
そう言って稔太は銃を持ち出した。思わず二、三歩下がる。
「鯖じゃないんだな……」
「なんのことです?」
「いや、なんでもない」
そして鯖ゲー、もとい、サバイバルゲームは始まった。
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