東京 

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東京 

 朝の通勤ラッシュは地獄絵図だ。  これが嫌でフリーのライターになったのに、なぜか今朝は朝からその真っ只中にある。 10 ようやく、新宿駅に着く どっと人が動き、人の流れに押し出されながら、よろつきながらPCの入ったくたびれて擦り切れたバッグを胸に抱え直す、 小走りに急いだ。  5日間かけて仕上げた原稿をやっとのことで完成した。  だが、送信しようにも、画面は突如フリーズしてしまっている。  そこから、明け方近くまで、試行錯誤したが、長年親しんだPCは機嫌を直してくれなかった。 はぁ、買い替えかな、 仕方なく、携帯から編集部の担当者へ直接自分で届けると連絡を入れて、仮眠を取った。 一一一ほんの30分のつもりだった    やっばい ブツブツと悪態をつきながら 歯ブラシを口に突っ込み、 溜まりに溜まった汚れた服の中から マシな黒のセーター (洗濯してなくても汚れが目立たないと理由で) 少しシミの付いたグレーのパンツ (コーヒーの汚れに違いない) を救出して着替え、急いで化粧をして、家を飛び出た。 ううっ、寒っ コートくらい着てくればよかった  季節はすっかり秋を終え、 風は冬の匂いがしていた  回転ドアを抜け、中に入る ビル内を颯爽と行く人達は、 皆一様にオシャレなスーツと、 洗練された都会的なファッショに 身を包んでいる。 少しうつ向き加減で、セーターの裾を少し引っ張って、伸ばした 再び毅然とまっすぐ前を向く  事前に連絡してあったため、スムーズに来客用の証明パスを受け取る。  足早にエレベータホールまで歩く。 しばらくすると降りてきたエレベーターから声をかけられた。 『あれ?三森じゃん、うわ、ひどい顔』 見慣れた顔だ。 数年前までこのビルにある出版社で共に働いていた同期の原田佐和だ。 『おはよ、、ひどい顔で悪かったわね。朝まで原稿やってたの』 今では30、40代向けの人気ファション誌『ヴェルデ』の編集長である原田佐和はいつも完璧な装いだ。 まぁ、たしかに朝から、いやいつでも? 酷いかもね  結子を待っていたようで、一緒にエレベーターに乗り込む。  『ねぇ、三森、週末の約束を忘れてないよね?』 『え?約束?、、、て何だっけ?』 『えー、あんた、まさか!?あんだけ言ったのに。忘れたとは言わせないわよ!!』 エレベーターが到着し、真顔で睨む佐和の横をすり抜け、編集部に駆け込む。 『あ、ちょっと、待ちなさいよ!』 追いかける佐和の声は、編集長を持ちかけていた部内のスタッフの声にかき消された。
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