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『すみません、ギリギリまで、お待たせして。ご迷惑お掛けしました』
編集部に着くと、担当者に原稿を渡す。
『いやー、三森さんのコラムけっこうマニアックつうか、通向けなんすけど、そこそこ人気なんで落とせないすよね』
まだ、20代の男性担当者は三森の顔も見ずに一気に画面越しに話しだす。
雑誌『ヴェルデ』で結子が担当する、コラムは映画をテーマにしている。
今回は、映画祭で人気のあった作品を特集した。
マニアック、そこそこ人気、、
『あ、ついでなんで、打ち合わせしときます?』
『 ー一 はい、よろしくお願いします』
一瞬の間を置き、楚々としたお辞儀をした。
春の特集原稿まで打ち合わせし、編集部を出る。
疲れた身体を無理やり動かし駅まで歩く。
すでに通勤ラッシュは終わっていたが、それでも忙しく人々が動いている。
11月も終わりかけ、東京の空は薄曇りで、吹き付ける風は冷たい。
コートも着ずに出掛けた自分に呆れ、冷たくなった頬を両手で温めながら急ぎ足で歩く。
ひたすら、ゆっくり風呂に浸かること、コーヒー片手に好きな本を読むことだけを考えて薄い肩を縮めながら、帰宅を急いだ。
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