俺はフェンサー

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「アンガルド」 審判のかけ声に合わせて、剣を構える。 「プレ」 一瞬の静寂。 「アレ!」 幅2m、長さ14mのピスト上で、フェンサーたちの戦略がぶつかりあう。 前進か、後退か。選択肢はふたつにひとつ。 間合いをはかりながら、あるいは相手に剣先を向けて牽制(けんせい)しながら、攻撃の機会をうかがう。 加えて、フルーレは「優先権(ゆうせんけん)」を持っている側が、有効面を突いて初めて得点となるルール。 先に腕を伸ばし剣先を相手に向けた方に「優先権」が生じるが、相手が剣先を払い、向けられた剣先をそらす、あるいは間合いをきって逃げ切れば、相手に「優先権」が移る。 攻撃、防御、反撃、再反撃。 目の前の1点、そしてその先にある勝利を目指し、剣による熱い応酬が繰り広げられる。 ここに集った中学生フェンサーたちの中に、努力していない者はひとりもいない。 それでも必ずどちらかが勝って、どちらかが負ける。 3割のフェンサーは予選敗退し、この会場を去ることになるのだ。 健一は、無事予選プールを突破し、決勝トーナメントに進出した。 午後からの試合にそなえ、観客席で昼食のおにぎりにかぶりつく。 「よう、健一」 口の中にあるおにぎりを飲み込んでから、健一は話しかけてきた相手に笑いかけた。 「康太、よっす」 「トーナメント、同じヤマに入ったな」 「順当にいけば、4回戦目か」 「お互い頑張ろうぜ」 「おう」
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