俺はフェンサー

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1回戦で残り128人、2回戦で残り64人、3回戦で残り32人。 トーナメントが進むごとに、大会に残るフェンサーたちの数がどんどん絞りこまれていく。 そして、ベスト16入りをかけた4回戦。 中学3年、最後の全国大会。対戦相手は康太。 「アンガルド」 ……勝ちたい。今年こそは、絶対に! 「プレ。……アレ!」 決勝トーナメントは、10点先取の2セットマッチ。 10点先取、あるいは試合を終えた時点で点数の多い方が勝利となる。 序盤から、2点差を追いかける苦しい展開が続く。 諦めるな。粘れ。 目の前の1点をもぎとるために、自分が持ってる全てを出しきれ! 必死に自分を鼓舞する健一。 けれど、あと2点の差が詰めきれない。 あがいて、あがいて、それでも結局、先に10点を取ったのは、康太だった。 「ラッサンブレ。……サリューエ」 試合終了の挨拶をして、健一は康太と笑顔で握手を交わした。 中学最後の全国大会は、4回戦敗退で終わった。 なのに、悔し涙のひとつも出ない。 着替えを終えて、会場の外に出た健一は自問自答する。 勝ちたいと口にしながら、俺は康太になら、負けても仕方ないって、諦めていたんだろうか。 全国には、康太よりもっと強いフェンサーたちがたくさんいるっていうのに。 ……もう、辞めようか。 初めて、そう思った。 負けても悔しくないということは、闘争心を失ったということ。そんな自分がフェンサーとして大成することはないだろう。 今なら、楽しかった記憶と、諦めたというほんの少しの痛みが残るだけで済む。
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