はじめに

1/1
9人が本棚に入れています
本棚に追加
/26ページ

はじめに

「1ページ小説を書きませんか?」  ある寒い夜、そうもちかけてきたのはエブリスタ内外で仲良くしてもらっている澤檸檬さん(https://estar.jp/users/1131380171)でした。  たった一ページ。はたしてそんなに短い小説が書けるんだろうか?  最初に自分が感じたのはそんな疑念でした。小品な これまでいくらか仕上げたことがあるものの、さすがにそこまで少ない文量で作品を仕上げたことはありませんでしたし、ましてや一枚の紙面に完結した物語を落としこんだことも、当然ありませんでした。  それでも原稿を作成するウェブツール(『文庫ページメーカー』様)を紹介してもらい、ものは試しと執筆をはじめてみると、意外にも肩の力を抜いてすんなりと書くことができました。  そこには短くとも一つの作品を完成させることへの達成感を味わうだけでなく、必要な文とそうでないものとの取捨選択を学び、日頃から親しくさせていただいている人たちへの贈り物として作品を書くいい機会にもなりました(誰にどの作品を献呈したかは、それぞれの本編中で触れていきたいと思います)。  素晴らしい執筆体験ではありますが、自分はこの1ページ小説というものを、同時にアイデアの墓場としても捉えています。  もっともそれは、死屍累々と横たわる無縁仏の亡骸に、疫病を含んだ雨が降る古戦場さながらのものではなく、よく手入れされた芝生と生垣が配置され、暖かな日差しの降り注ぐ共同墓地のようなイメージです。  その墓場では頭には浮かんだものの、自分の力及ばずとうとう長大な物語としての出生を迎えられなかったアイデアたちの墓石が並んでいます。  読者の皆様にも、それぞれの墓碑銘に触れていただければ、どのような泡沫のアイデアが浮かんでは消えていったかの片鱗をお伝えできるかと思います。  無論、いい思い出だけではありません。墓場という比喩さながらに死がからむ場合もありますし、地面から腐りかけて骨ののぞいた手が突き出し、読む人の足首をつかんでくるかもしれません。  それでもよければ、どうぞページをめくって立ち寄ってみてください。もちろん花束や果物、お酒といった供物も必要ありません。  各ページの構成としては、最初に『文庫ページメーカー』様で作成したページの画像を載せ、その下に作品についての自己寸評も添えています。  何卒、通信量にはご注意を。  最後に、この執筆活動では自分自身も大いに楽しませてもらいましたが、それ以上に、誰かに作品を捧げるという喜びをあらためて感じることができました。  自分の創作に新しい境地を啓いてくれた澤檸檬さんと拙い作品を快く受け取ってくれた執筆仲間、そしてこの作品をお手に取ってくださった読者の皆様に感謝を申し上げます。  千勢 逢介
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!