14人が本棚に入れています
本棚に追加
ひとつめ
「——人って、いつ死ぬかわかんないんだなって、本気で考えさせられました……だから、これからは後悔なく生きていこうって、思ったんです」
旅行先の島で遭遇した殺人事件の話をした後、真海はそう締めくくった。いつになく真剣な顔つきで、長い黒髪をかきあげる。
「——やり残したことがないようにしたいんです」
真海の言葉に年長者らしく微笑み、相槌を打ちながら、高森の心はざわついた。
結婚でも切り出す気かと、真海の隣に座るパーカー姿の男が気になる。
男の名前は増田克己。
真海が夢中になっているゲームキャラの声優をしているが、本業だけでは食べていけず、バイトに明け暮れているようだ。
富豪の娘との結婚は、この男にとって願ったり叶ったりの幸運だろう。
だが真海の次の言葉は、克己との結婚以上の衝撃を高森に与えた。
「私、多恵子さんの家を処分します」
多恵子とは、亡くなった真海の母親の名だ。
「今まで見ないふりしてきたけど、あのまま放置出来ません。私が継いだ土地ですし、責任があります」
高森は平気を装い、微笑んだ。
「……あそこを、売るんだね」
「あの家があったら無理ですから、取り壊して更地にします」
でもあの家はと、高森が言いかけた時、横から克己が口を出してきた。
「除霊してもらうんですって! 真海さん、すごい霊媒師を紹介してもらったんですよ。僕、立ち会いたいな。その家に何が取り憑いてるのか、見てみたいな!」
興奮状態の克己には目もくれず、高森は「本気なの?」と、真海だけを見た。
真海は高森を見て、しっかりと頷く。
高森は、そっと視線を逸した。
鼻筋の通った品のいい顔は、母親譲り。
髪型も全く同じ。
だが目が違う——。
真海の目は高森が理想とする母親のように慈愛に満ちている。
そうだ、この子はあの女とは全く違う……。
「——その霊媒師って、本物なの?」
高森が言うと、真海はにっこりと笑った。
「島で起きた事件を解決した刑事さんからの紹介なんです。絶対、間違いありません!」
最初のコメントを投稿しよう!