14人が本棚に入れています
本棚に追加
心残り①
未央が敷地の中から門扉を開けると、高森は不思議そうに目を細めた。
「——いくらやっても、びくともしなかったのに……外からは開かないようになっているのか……」
「ここは、幸恵さんの霊が支配しているみたいです」と、未央は高森を見上げた。「幸恵さんのこと、教えて下さい。ご存知なんですよね?」
「……私は、何も知らない」と高森は未央を無視して、門の中に入ろうとした。「真海さんに会いに来ただけだ」
ところが鉄の門は、未央に続き秀一が外に出た途端に音も立てずに閉まった。
高森は急いで門扉に手を伸ばした。再び固く閉ざされた門扉をガシャガシャいわせながら、唖然とした顔をする。
「……なんなんだ……どうやったら、開くんだ……」
「あなたが自分の罪を全て告白したら、開くよ」
秀一が言うと、高森は恐ろしげに横目で秀一を見たが、すぐに視線を反らした。
「……私は、関係ない……あの子、幸恵さんは、足を踏み外して、階段から落ちたんだ……あれは事故だ……」
「バスの運転手から落とされたって、言ってたよ」
「バスの運転手? 笠原さんのことか? どうして彼が——」
高森は突然、苦しげに胸を抑えた。
「大丈夫ですか?」と未央が高森に駆け寄る。
「——私の車のダッシュボードに薬がある、取ってきてくれ」と、高森は未央に車のキーを預けた。
未央がいなくなると高森は秀一を見つめた。「君は本当に幸恵さんの霊と話をしたのか?」
「幸恵さんを騙した弘一。階段から突き落としたバスの運転手。死体を埋めた二人の男。四人を探さなければ、この門は開かない。中にいる人達は出られない」
秀一が言うと、高森は胸を抑えながらうめいた。
「辛そうだね」と秀一。
「——凌遅刑を内臓から、くらっているようなもんだ……これは、呪いなのか?」
「この家の人は、悪魔を召喚してたの?」
秀一が言うと高森は胸を抑えながら、バカバカしいと顔を歪めた。
「——多恵子さんの祖父はオカルト趣味があって色々と胸糞悪い物を集めていたが、多恵子さんは、コックリさんにハマっているだけの普通の女性だ……」
「コックリさんって、何?」
「女の子が好きな遊びだ。幽霊を呼んで、占ってもらっていた——好きな人と結ばれるかどうかとか——」
「幽霊を呼んで、占う?」と秀一は首を傾げた。「占い師の霊を呼ぶの?」
「多恵子さんは、天使と交流したがっていたよ。特に天使の中で最も美しい姿をしているとかいうルシファーを呼んでいた」
秀一は驚いた。「ルシファーを呼んで、恋占いさせたの⁉」
「耽美趣味は、娘の真海さんに引き継がれたようだな——」
未央が駆けてくるのを見て、高森はよろよろと歩き出した。
「私は入院中なんだ。話の続きは車の中でしよう——あの日、私は友人と車でこの家に向かう途中、バスを運転する笠原さんとすれ違っている。笠原さんが幸恵さんを階段から突き落とすとは思えない——」
未央に聞かれないように秀一は高森の背中に小さく囁いた。
「あなた、死体、埋めたね」
高森はギクリとして、足を止めた。
「その友人と二人でやったんだね」
最初のコメントを投稿しよう!