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心残り②
薬を飲んだ高森は痛みが治まったのか、未央に礼を言うと車に向かった。秀一と未央に向かい、どうぞと後部座席を開ける。
少女の死体を埋めた男の車に乗っていいものかどうか、秀一が迷う間もなく、未央がひょいと車に乗り込んだ。
しょうがないので秀一も未央に従い車に乗る。
「秀ちゃん、僕の部屋にスマホ、忘れてきた?」
車が走り出すと未央が訊いた。
「そうかも」と秀一。「分かんないけど」
部活の朝練に出て、寮生の未央にシャワーを借りながら、スマホを充電させてもらったのを思い出した。
今手元にないのだから、そのまま未央の部屋に置きっぱなしになっているのかもしれない。
「賢人くんが秀ちゃんに電話したら、僕の部屋から着信音が聞こえたんだって。いっぱいライン入ってる。家の人が探してるみたいだよ」
「家の人?」
「急用かも、電話しといたら?」と未央は自分のスマホを秀一に寄越しながら、「電話かけさせて下さい」と秀一に代わり、運転席の高森に断ってくれた。
どうぞと高森。
だが秀一はスマホを未央に押し返した。
「いい!」
賢人が持ってきた仕事のせいで、厄介事に巻き込まれてしまったのだ。
いま声を聞いたら怒鳴りつけてしまいそうだ。
それだけならいいが、怒りと共にうっかり賢人を葬り去ってしまうかもしれない……。
「じゃあ、僕が返信しとく」
「お願い」
「怜司くんも心配してるよ」
未央はメッセージを打ち始めた。
「秀一くん、魂は本当に存在するのか?」
唐突に運転席から高森が訊いてきた。
「いわゆるエーテル体とかアストラル体とかいったものなのか?」
「えっ? エーテル? 何それ?」
聞いたこともない言葉に秀一は眉を寄せる。
「——私は健康を損ねてから、長くてね……西洋医学だけでなく、怪しげな療法にもすがったことがあるんだが、そこでは松果体に魂が宿るとされていて、脳を活性化させる修行を行ったんだ」
「しょうかたいって……」
唱歌隊だろうかと秀一は首を傾げる。
「君には、人の魂がどんな風にみえるんだ?」
秀一は首を傾げたまま考え込む。「……光、かな……ちっちゃいツブツブが光りながら、ゆらゆらしてる」
そうかなるほどと、高森は感心したように深くうなずいた。「君は、私の過去を言い当てたが、宇宙の起源も見えるのか? アカシックレコードにアクセス出来たりするのか?」
「赤? なに?」
秀一が戸惑っていると、未央がスマホに目を落としたまま自慢気に言った。
「秀ちゃんは、魔法使いなんです!」
未央の言葉に高森がクスッと笑った。
「君たち、まだ高校生だろ。別に普通だよ」
「……普通なの?」と秀一は驚く。
「ああ、大丈夫だ。気にすることじゃない」
突然、未央が「もう、ダメだ……」と下を向いた。
「どうした」と高森がバックミラー越しに慌てた顔で未央を見る。「君まで呪われたか!」
「メール打ってたら、車に酔っちゃった……」と未央は苦しそうに目を瞑る。「……気持ち悪い、吐きそうだよ……」
「そこのカフェで、休もう!」
高森は急いでログハウス風のカフェに車を停めた。
周囲は薄闇に包まれ始める。
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