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ミステリー研究会発足③
「みんな、ミステリー研究会、最初の事件に取り掛かろう!」と、未央は六人全員の顔を見回した。
「僕と秀ちゃんと怜ちゃんは、三十年前の失踪事件を聴きに行く。高辻くんは都筑さんの居場所を倫太郎さんに訊いてよ」
未央の言葉に、腕組したままのハルは思いっきり嫌な顔をした。
「都筑さんは今夜、鴨志田真海さんと食事をする予定だったから、東京のどこかのレストランにいるはずなんだ」
「なんで、その真海って女と連絡取れないんだ? 秀一に幽霊退治頼んできた張本人なんだろ?」
未央は隣の秀一をチラリと見た。
二人の様子を見ながら鮎川は、何か隠し事があるなと感じた。
だがそんなことより気になる事が、今の鮎川にはある。
「ハル」と秀一がハルに顔を向けた。「都筑さんがいる場所がわかったら、すぐオレに教えて」
秀一の言葉を聞いた途端、ハルは勢いよく立ち上がった。「倫太郎さんに、電話かけてくるぞ!」
奥にいるハルを通すために篤人と多聞は立ち上がったが、ソファー席の端にいる鮎川は立たなかった。
鮎川は、じっと紙ナプキンに書かれた文字を見つめている——私たちは、ほとんど自由だ——。
「早く、どけ!」
ハルに怒鳴られても、鮎川はじっと動かなかった。
「ハル、都筑さんが事件に関わっていることは、倫太郎さんに言わない方がいい」と鮎川が静かに言う。
「んああ?、おまえが言い出したんだろがあ!」
ハルはテーブルを蹴飛ばしそうな勢いで怒鳴った。
「静かにしような」テーブルを抑えながら怜司が苦笑する。「ファミレス出禁とか恥ずかしいからな」
「——生徒会主催の講演会でスピーチを頼んでいた人が急遽出られなくなったってのは、どうかな?」と鮎川は顔を上げてハルを見た。「都筑さんに代役を頼みたいから、今夜中にどうしても連絡を取りたいって、倫太郎さんにお願いしてみたら?」
「なんだよ、話が複雑になってるじゃんか! 覚えらんねえぞ!」
「事件のことは、都筑さんと会ってから持ち出そう」
鮎川の言葉に多聞はうなずいた。「だな。あのおっさん、逃げるかもしんないし」
「俺が、倫太郎さんに話すよ」と篤人が言った。「あの人、俺が生徒会役員だって、知ってるし」
「マジ! 助かった!」
ハルは手を組んで篤人に頭を下げた。
鮎川は立ち上がり、多聞、篤人、ハルの三人を通す。
「アユ」と通路に出ながら篤人が言った。「君は秀一たちのチームに入ってよ」
鮎川が怪訝な顔で篤人を見ると、篤人は未央を見ていた。
「会長、二チームに別れよう。秀一、怜司、アユは怜司の叔父さんからの聞き取り。残りは都筑さんの居所探しだ」
「僕は秀ちゃんと行くよ!」と未央。
「君は当事者だろ。都筑さんに会えた時に、どんな質問をすればいいのか分かっている者が必要だ」
篤人はそれだけ言うとハルと共に店外に向かった。
「行くぞ」と多聞が面白くなさそうな顔の未央の腕を掴んだ。「俺たちは、同じチームだ」
多聞に腕を掴まれた未央が席を離れると、鮎川はまた腰を下ろした。
「もう少しで、叔父さんがここに着くよ」と怜司は言いながら自分のスマホを鮎川に見せる。「これ、失踪事件について書いた叔父さんのブログ。秀一が会った幸恵さんの事件は有料会員にならないと、読めないけど」
「親戚でしょ。会員になってあげないの?」と鮎川はからかうように笑って、スマホの文字を読んだ。
「……暗い事件って、苦手だ……読みたくないよ」
よくわかる。
見なければ存在しないのと同じこと。
知らなければ、起きていないのと同じこと。
十代の女の子がさらわれた後、どんな目に合うのか——想像もしたくない。
「……その家の付近で、十八人もいなくなっているんだ……」と鮎川はスマホの文字を素早く読んだ。
「あの家の人は——」秀一が口を開いた。「女の子を妊娠させて、悪魔に胎児を捧げていたんだ」
「グロっ……」と怜司が手で口を抑える。
「——そういうことか」
鮎川はやっと思い出した。
「わかったよ、これ」と鮎川はナプキンに書かれた文字を指差す。「人体実験だ」
怜司が青い顔で頭を抱えた。「マジか……」
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