14人が本棚に入れています
本棚に追加
ミステリー研究会発足⑤
「悪魔や幽霊より怖いのは人間だよ。生きている人間が一番怖いんだ」
鮎川がそう言った途端、場の空気が変わった。
手を重ね合わせたまま、他の六人が鮎川を見てくる。
「——アユの言うとおりだ。慎重にいこう」と未央が口を開いた。「都筑さんに会えて、弘一さんとバスの運転手さんの居所がわかったら、警察に行く。秀ちゃん、それでいいよね」
秀一を見つめながら未央が念を押すように言うと、秀一はコクリと頷いた。
「時間を決めよう」と篤人も秀一をじっと見つめる。「二時間だ。二時間経ったら、結果はどうであれ、俺は警察に全部話す」
秀一が答えるまで、ほんの少しだけ間があった。
「——わかった。二時間で、なんとかする」
『なんとかする』とは、どういう意味かと鮎川が訝っていると、怜司が全員に号令をかけた。
「よし、動くぞ! 二時間で三人の居所を突き止めるんだ!」
「よっしゃー!」とハルが、勢いよく立ち上がる。「時間ねぇんだ、すぐ出るぞ!」
「俺、会計しているから。みんな下に降りていて」と篤人も立ち上がり、伝票を掴む。
ゴチですと頭を下げるハルに、立て替えるだけだよと答えながら篤人は、鮎川に目配せした。
ハルと同じく、篤人とも付き合いの長い幼なじみだ。何か話があるのがすぐに分かった。
鮎川は黙って篤人と一緒にレジに向かう。
篤人が会計をしている間、鮎川はウェイティング用の椅子に腰を下ろした。そこからはエレベーターを待つ秀一たち五人の後ろ姿が見える。
黒いジャンパー姿の男が、秀一たちの後ろに立つのを鮎川はぼんやり眺めた。
やって来たエレベーターに秀一たちが乗り込む。
エレベーターには他にパーカー姿の若い男が一人だけ乗っていた。
背の高いハルと怜司が後ろに立ち、その前には未央を真ん中に多聞と秀一が並んで立った。
集合写真のように五人の顔がはっきり見える。
未央、多聞、怜司が店内にいる鮎川に気づき、手を振ってきた。
鮎川が手を振り返す中、黒ジャンパーの男が乗り込み、エレベーターのドアが閉まった。
——なんだ?
振っていた手を下ろした鮎川は何か違和感を感じたが、会計を終えてやってきた篤人に思考が遮られた。
「さっきのは、なんなの?」
「何?」
「生きている人間が一番怖いって、どういう意味? 俺達が電話している間、秀一から何か聞いたの?」
「高森さんが残したメモの話だよ」鮎川は立ち上がった。「未央がダイイングメッセージだって言っていたやつ」
「どういう意味か、わかったの?」
「どこで見た言葉なのか思い出しただけだよ。ダイイングメッセージというより、警告じゃないかな——とんでもない犯罪組織が絡んでるぞって教えてくれたのかもしれないし、そんな分かりやすいものじゃなくって、フェイクニュースを流している黒幕がいるって言いたかったのかもしれない——事件を調べ続けてきた怜ちゃんの叔父さんと話せば、詳しいことがわかるかもね」
「少し話そう」
店を出た篤人はエレベーターホールを通り過ぎ、階段を下りようとした。
「ここ五階だよ!」
「下りながらアユが来る前にみんなで何を話していたか、教えるよ」
鮎川は別に知りたくないし、歩きたくもなかった。
エレベーターのボタンを押す。
「あっちゃん! エレベーター使おうよ!」
「正語先輩が秀一を探しに寮に来たんだ。秀一と未央は、何かを隠している」
篤人は階段を下り始めるが、鮎川はエレベーターの前に立ち続けた。
「僕はエレベーターに乗るからね!」
だがエレベーターは二階で止まったまま動こうとしなかった。
「アユ」階段を途中まで下りた篤人が戻ってきた。「しーちゃんと未央が来た」
仕方ない。鮎川はエレベーターから離れて階段を見下ろした。
「ああ、やっぱり!」息を切らせながら未央が駆け上がってくる。「二人でコソコソ何、話してんだよ!」
「書記の俺もまぜろ! 記録しなきゃなんないんだからよ!」と多聞も走ってきた。
「他のみんなは?」と篤人。
「下で待ってる」と多聞。「俺たちは三階で下りて、上がってきた」
「アユは、高森さんのダイイングメッセージの謎解いたの?」と未央が目をキラキラさせながら鮎川を見上げた。「僕にも教えてよ! あれ、どういう意味なの?」
その時、エレベーターのドアが開く音がした。
「(ラッキー!)時間ないんだから、エレベーター使おうよ」と、鮎川はエレベーターに向かった。
最初のコメントを投稿しよう!