グルニエ②

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グルニエ②

 身体が冷たく、固い。  秀一が入っているこれは死体だ。  だが秀一が運ばれるのは、従兄弟の正見(まさみ)が外科部長を勤める病院。  前回はちぎれた手足がくっつき気味悪がられたが、深く追求されなかった。  今回は全身の血が抜けて内臓がはみ出ている。  だがまあ大丈夫だろう。  心配なのは正語(しょうご)だ。  またどう思われるか——。  まあいい。  愛想を尽かされたなら、また好かれそうな身体を見つけて会いに行くだけだ。  そんなこと、服を着替えるように容易い。  だが今生。  あいつが自分以外の相手と一緒にいるのを見続けるのは癪に障る。  なんとか一矢報いることはできないか……。  未央からまたメッセージが来た。 『秀ちゃん、大丈夫? 高辻さんが迎えにきてくれた。多聞くんと一緒に都筑さんがいるホテルに向かってるよ』  こっちはみんな無事だと、メッセージを送ったが、未央の不安が伝わってくる。  安心させるために、協力してくれる人がいるとメッセージを送った。 『正語さんに来てもらったの?』 『違う』 『警察の人じゃないの?』  あいつを何と呼べばいいのか——。 『屋根裏って、なんか他の言い方ある?』 『グルニエ』  いい感じだ。  名前っぽい。 『グルニエに手伝ってもらってる』 『外国の人?』  その時、近づいてくる人の気配を感じた。  鮎川だ。 『心配しないで。助けが来た』  秀一はスマホを閉じた。  鮎川が階段を上がってくるのが分かったが、なぜか呼吸が辛そうだ。  ——アユ? 誰かに追われてるの?  助けに行きたいが、身体が動かせない。  仕方がないので、隠れて震えている灰色のパーカー姿の男を操ることにした。  ——アユが危ない! 助けを呼べ!  男は腰が抜けた状態で床を這った。  鉄の扉を開けてやると、男はその隙間に手を伸ばす。  伸ばした手で人の足を掴み、男は大声を上げた。 「助けてくれ!」  よかった。  これでアユは助かる。  安堵と同時にいい考えがひらめいた。 ——そうだ! 力を失くせばいいんだ! 正語にもっとも愛されていた時にオレは戻るぞ!  秀一は自分に術をかけて、力を封印しようとした。    だが、ふいに幼馴染のコータの姿が頭をよぎる。  みずほ町の本家で、黙々と掃除機をかけるコータ……。  秀一の実家は、コータ(正確にはバックについている大人)から慰謝料を請求されている。  今回自分がした仕事で、支払いは終わるのだろうか?  まだ足りないならどうしよう……力を失くした自分にはコータへの償いが出来ない……。 ——もっとお金が必要だと言われたら、オレは元の自分に戻りまた働こう!  秀一はそう決意して、自らの力を封印した。  そして自分が何者なのかも忘れ去った。
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