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「明日から冬休みだっていっても、遊んでいられないわね」
夕食の時間、祖母が祖父の作った豆のスープを 一口食べて、僕に言った。
「うん。来年は魔法アカデミーの受験だからね。遊んでる暇なんてないよ」
「もう来年か。頑張れよ。で、どうだい? 美味いだろ?」祖父がテーブルに前のめりになる。
「もちろんだよ」僕は微笑む。
我が家は、過去に魔法学校の教師をしていた祖父母と魔法学校に通っている僕の三人家族だ。
僕はスープを味わいながら、同じ学校に通っているクラスメイトのユウアのことを考えていた。
ユウアは、学年で一番魔法の才能があって、可愛くて、優しい女の子だ。授業で同じグループになり、それから仲良くなった。
そういえば、この前二人で隣町の祭りに出かけたけど楽しかったな。
ユウアのことが好きだ。でも ユウアは僕のことを、どう思っているのだろうか?
「将来は魔法学校の教師になりたいの。できれば、この学校の教師になれればいいな」
今日の放課後、二階にある教室の窓から青空を見上げて、目をキラキラさせながら話していたユウアを思い出す。
僕も魔法学校の教師を目指しているけど……成績が悪いから無理かもしれないな。
「そういえば、最近、あまり学校の話をしないけど、どうなの?」
「ん? が、学校……は上手くいってる」
祖母の質問で現実に戻り、あたふたしながら言った。
「そう。何も問題がないなら良かったわ。でもリョウ、さっきからニヤニヤしてどうしたの?」
「いや、ニヤニヤなんてしてないから」
「いーや、今は真顔だけど十数秒前までニヤけてたぞ。もしかしてアレだろ? 恋ってやつをしてるんだろ?」
祖父が僕の顔を指さした。
「してない、してない。はい、美味しかった、ご馳走様。もう部屋に行くから」と僕は立ち上がった。
祖母が「あら、ものすごい勢いで食べて、さっさと退席? まだ口の中にスープの具が入ってるみたいだけど、それって、お行儀よくないんじゃないの? それに後片付けは? 私たちにやれって言うの?」と顔を顰める。
「出たよ。ばあちゃんの質問攻めが。今日はじいちゃんが担当の日。だから、よろしくね、じいちゃん」
「夕食作りも後片付けも俺なのか? 家事分担のバランスがおかしくないか」
祖父も祖母と同じ表情をする。
「おかしくないよ。今日の僕の担当は、玄関のドア以外の掃除と洗濯。ばあちゃんが玄関のドア掃除で、じいちゃんが食事作りと後片付けになってるんだから」
「あれ? ヘレンは昨日も玄関のドア掃除じゃなかったっけ?」
「そうよ。私は、多分あと二ヶ月ぐらい玄関のドア掃除担当のはず」
「リョウ、お前が作ったシステムには欠陥があるぞ。だって……ヘレンばっかり、随分と楽そうじゃないか。リョウは、ばあちゃん派なんだな。ううぅ」
「いや、平等に祖父母を愛しているよ。それに、僕の作った『家事役割分担表』には欠陥なんてないから」
「そうそう。それに、玄関のドア掃除は奥が深いんだからね。丁寧にやったら時間がかかるのよ。私がズルしているみたいなこと言わないでよぉ。ね?」
そこで祖母が祖父に向かってウインクした。
「おぉっ! ヘレン! なんて可愛いんだ! 何十年経っても、そのウインクは可愛すぎるぞっ! 洗い物でも、屋根掃除でも何でもやってやる! ヘレン、心から愛してるぞ!」
困ったときに発動する祖母のウインクは、祖父の心臓のど真ん中を撃ち抜く最強の武器となる。
「もぅ、やめてよぉ。孫が見てる前でぇ。恥ずかしいじゃないのぉ」
「いいや! やめるもんか! 俺は誰が見ていようと、君への愛を表現したいときに表現するぞ!」
「あら、もう! リョウ、せっかくだから、しっかりと目に焼き付けなさい!」
「僕……部屋に行くから」
僕は台所から出て、階段を上がり、静かな自分の部屋に入った。部屋のドアを閉めても、祖父母の盛り上がっている声が微かに聞こえた。
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