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愛憎の檻
「久しぶりだね」
背筋を強張らせて振り返れば、予測していた柔和な笑顔と邂逅した。
「会いたかったよ」
「嘘だろう?」
「いや、本当に会いたかったんだ」
彼は穏やかに微笑むと、小さな包みを僕に差し出した。
おそるおそる手に取った僕の目に飛び込んで来たのは──
「こ……れを、どこで、どうやって」
「……暗殺者の里って、本当にあるんだね。みんな手練れだったよ。苦戦したけど──ね、これでやっと、君の動揺した顔が見られる」
「殺したのか……全員……?」
「そうしないと、君は泣かないだろう?」
「ただ、僕を泣き顔にするためだけに?」
「それ以外に、何がある?」
彼は僕ら暗殺者の里長の証(あかし)の首飾りを僕に握らせたまま、なおも穏やかに微笑んで見せた。
自棄になれ、とでも言うように──
「どうして……」
「ん?」
「どうして、僕を殺さない?」
彼はにたりと笑うと、纏わりつくような手つきで僕を抱きしめた。
「愛しているからさ──俺の一族を皆殺しにした、暗殺者殿」
「──狂ってる」
「ふふふ……」
長い、長い夜は明けない。
新月の闇に紛れた二人を、ただ、虚空だけが見守っていた。
【終】
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