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1 出会い
森が大地を埋め尽くす時代、その中でいくつかの国がひっそりと興った。
最も古い国は、大地の北壁と称されるダクタ山脈の麓にあった。シアランディアである。
古くからの精霊信仰を残し、人々は自然を畏敬すると同時に深く愛していた。彼らにとって自然はすなわち精霊だった。精霊を信じ愛する民であるシアランディアの人々は、他の地域の人々よりも精霊に愛され、多くの魔術師を輩出した。
その筆頭が、魔術の開祖であるデスモンドである。
彼は、幼い頃から感受性が豊かで、訓練せずとも精霊たちが見えた。精霊が遊び相手だった、と言っても良かった。経験的に精霊と交流する術を身に付けた彼は、人が踏み込まない深い森にも精霊の案内で入っていくことができた。
デスモンドが若い頃、いつものように精霊の案内で深く森に入っていったとき、そこで巨大な熊に出会った。
黒々とした毛並みで黄金色の瞳を持つ大熊は、離れたところからデスモンドをじっと見つめていたのだ。
デスモンドは、反射的に斧を構えて息をつめて睨んでいたが、熊はいっこうに怯えもしなければ、襲いかかろうともしないのだった。
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