1 出会い

2/4
前へ
/119ページ
次へ
 しばらくそのままデスモンドは熊と見合っていたが、冷静になって周りを見渡すと、精霊たちが穏やかに成り行きを見守っていた。 (おかしい…)  そもそも危険な事柄は、木霊やシルフィーがそっと教えてくれることが多い。これほどの大熊だったら、当然彼らが教えてくれてもいいはずだった。なのに、なんの予兆も示されなかった。 (どういうことだ?)  デスモンドが、斧を下ろした瞬間、 「若者よ。聞こえるか?」 と声がした。きょろきょろと周りを見渡しても人影はない。 「正面の熊だ。私がお前に語りかけている」 と声がしたものだから、デスモンドは驚いて尻もちをついた。その周りを精霊たちが愉快そうに囲んだ。 「あれは何?」 と、デスモンドが周りの精霊に訊くと、「主様」「主だ!」「私たちの主」と口々に囁いていた。彼らの主なら精霊なのではないかと思ったが、それにしては、熊の姿は現実的であり、その言葉は明瞭だった。普通、精霊たちの姿は不明瞭で、言葉は片言で、かすかだった。  デスモンドは思い切って言った。 「森の精霊たちが、あんたを『主』と呼んでいるが…本当か?」
/119ページ

最初のコメントを投稿しよう!

28人が本棚に入れています
本棚に追加