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しばらくそのままデスモンドは熊と見合っていたが、冷静になって周りを見渡すと、精霊たちが穏やかに成り行きを見守っていた。
(おかしい…)
そもそも危険な事柄は、木霊やシルフィーがそっと教えてくれることが多い。これほどの大熊だったら、当然彼らが教えてくれてもいいはずだった。なのに、なんの予兆も示されなかった。
(どういうことだ?)
デスモンドが、斧を下ろした瞬間、
「若者よ。聞こえるか?」
と声がした。きょろきょろと周りを見渡しても人影はない。
「正面の熊だ。私がお前に語りかけている」
と声がしたものだから、デスモンドは驚いて尻もちをついた。その周りを精霊たちが愉快そうに囲んだ。
「あれは何?」
と、デスモンドが周りの精霊に訊くと、「主様」「主だ!」「私たちの主」と口々に囁いていた。彼らの主なら精霊なのではないかと思ったが、それにしては、熊の姿は現実的であり、その言葉は明瞭だった。普通、精霊たちの姿は不明瞭で、言葉は片言で、かすかだった。
デスモンドは思い切って言った。
「森の精霊たちが、あんたを『主』と呼んでいるが…本当か?」
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