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彼自身が薬師にならなかったのは、なれなかったのだった。
薬師になるには、人と会話しなければいけない。患者との対話は必須である。しかし、デスモンドは他人と会話することが極度に苦手だった。同時に二つのことを言われると一つが定かでなくなり、話が長くなると最後の方では何の話だったか分からなくなる。
人の口から出る言葉が、ときに一貫性がなく、ときに本心と裏腹であることが、このころのデスモンドには理解できていなかった。
人の言葉に対して反応が鈍い彼のことを、村の人々は「うすのろ」と貶すのだった。
侮られる日々が嫌になり、人を避けるように一人で森の仕事をするうちに、彼は精霊たちと仲良くなっていった。
そんなデスモンドが、普段どおり森で薬草を摘んでいると、辺りが急に陰になった。何事がと見上げると、そこにはいつもの大熊が立っていた。
「うわ」
デスモンドが驚いて尻もちをつくと、大熊が「すまない。近寄りすぎてしまった」と言った。
「ああ。あんたか。ビックリさせんなよ」
「今日は、午後から雨が降るぞ。早く仕舞って帰ったほうがいい」
と大熊が言うので、
「そうかい。ありがとよ」
と、デスモンドが礼を言って立ち上がると
「へぇ、驚いた。本当にグレンと会話しているんだ」
と大熊の後ろから長い金髪の男が出て来た。
「やぁ。君に会いに来たよ」
そう言って笑ってデスモンドを見た男こそ、人の姿に擬態した妖精王フィンだった。
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