2 期待

1/5
前へ
/119ページ
次へ

2 期待

 アリンは、夜明け前から起き出して館を出た。  麓に向かって大きく張り出した崖の上に行き、見晴らしの良い位置に胡坐を組んで座ると、大きく深呼吸を繰り返した。  そして、 「森羅万象息づく皆々様、おはようございます。古からの全ての営みに思いを寄せ、愛しみ、今日の恵、今日の喜びを感謝します」 と言った。朝の精霊への挨拶である。  アリンの周りには、さまざまな精霊が集まり群れていた。  凡人には風が吹きすさぶだけの崖にしか見えないだろうが、そこにはアリンの心に反応した精霊が集まり、暖かな場を作っていた。  通常魔術師は、その魔術の発動に精霊の力を借りる。したがって、魔術師の修練の第一歩として、精霊への感謝の行は欠かせない。  精霊から愛されているアリンであっても、これは必ず行うようにとデスモンドから言われている。  朝日で白んでいく空の下で、周りに集まる精霊を感じ、彼らの意志を感じることで、アリンは自分の内面が洗われていくようだった。  
/119ページ

最初のコメントを投稿しよう!

28人が本棚に入れています
本棚に追加