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2 期待
アリンは、夜明け前から起き出して館を出た。
麓に向かって大きく張り出した崖の上に行き、見晴らしの良い位置に胡坐を組んで座ると、大きく深呼吸を繰り返した。
そして、
「森羅万象息づく皆々様、おはようございます。古からの全ての営みに思いを寄せ、愛しみ、今日の恵、今日の喜びを感謝します」
と言った。朝の精霊への挨拶である。
アリンの周りには、さまざまな精霊が集まり群れていた。
凡人には風が吹きすさぶだけの崖にしか見えないだろうが、そこにはアリンの心に反応した精霊が集まり、暖かな場を作っていた。
通常魔術師は、その魔術の発動に精霊の力を借りる。したがって、魔術師の修練の第一歩として、精霊への感謝の行は欠かせない。
精霊から愛されているアリンであっても、これは必ず行うようにとデスモンドから言われている。
朝日で白んでいく空の下で、周りに集まる精霊を感じ、彼らの意志を感じることで、アリンは自分の内面が洗われていくようだった。
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