117人が本棚に入れています
本棚に追加
2
華には姉が1人いた。
そう、今はもうこの世にはいない。
小さな時から仲良い姉妹で、姉はいつも色んなものを華に譲ってくれた。妹には良くある事で姉の持っているものが全て良くみえた。
玩具やお菓子、文具に服。
姉の彩は何でも華に譲ってくれた。
だから、バチが当たったのだ。
華が本当に欲しかったものは姉のものになり、それはずっと華を苦しめる事になった。
華は中学からテニスをしていて高校はそれなりの進学校に進んだのだが、部活に熱中するあまり勉強が疎かになった。いよいよヤバいぞと思った両親が勝手に家庭教師を頼んでいた。
マジで最悪。
華は個室に他人と一緒にいるのが苦手だった。
教室などの広い空間はまだいいのだが、狭い空間が苦手でエレベーターなどもあまり得意ではないためよく階段を使ったりしていた。
自分の部屋で家庭教師と2人ってしんど。
そんな憂鬱な気分を彼が吹き飛ばす。
当時、大学生だった佐渡だ。
「前畑さん。家庭教師の佐渡です。宜しくお願いします」それまで華の周りにいたクラスの男子とは違った大人の落ち着きがある佐渡の雰囲気に華はノックアウトされた。
え。
マジでカッコいい。
どうしよ。
そんな華の浮かれっぷりは、授業が始まるとガラリと変わり段々と空気も重くなる。自分は思っていた以上に勉強が出来ない。
「前畑さん。少し休憩しましょう」そう言って佐渡は開けていた部屋のドアに向かう。休憩に入る時は親に声をかけるのが決まりだったからだ。
「え?佐渡君?」廊下から姉の彩の声がする。
「え?前畑?あ、華さんは君の妹なんだね。びっくりした。」佐渡の少し高めの声のトーンに華は胸がピリッとするのを感じつつ2人の様子を盗み見る。
「佐渡君、家庭教師やってるんだ。さすが我が大学の秀才。」
「いや、秀才じゃないから」
そう言って2人は笑い合う。
姉がヒョコッと部屋に顔を出して「華、佐渡君秀才だから、沢山教えてもらいなね」と笑う。
「うん。」華は相槌しか打てずに姉を見つめた。
その時、何となく気づいていたのだ。
姉のいつもとは違う可愛らしい笑顔は彼が引き出しているのだと。
そして彼もまた姉を見つめる目が優しい事も
その時にやめておけば良かったのだ。
不毛な恋心など。
けれど、止めたくても勝手に彼を思う気持ちは積み重なりどんどん重たくなっていく。
そんな2人の雰囲気は姉である彩が病気で亡くなるまでの間ずっと華の目の前で続いた。
最初のコメントを投稿しよう!