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「そうか、残念だ。でもね、君を諦めるのは勿体無い。だから、君が僕を求めるようになるようにしてあげるよ」
まずい。
そう思った矢先だった。
唇に冷たい感触が伝わる。
瞬きする合間に背後にあった彼の姿が目の前にきていた。
長いまつ毛で隠れるような目が私を捉え、唇は塞がれている。
何が起こったかわからないとはこのことだった。
一瞬の間にたくさんの出来事が起こりすぎて追いつけない。
ただ、体の中が軽くなっていくのを感じた。
「ふふ、これで君は僕しか見えなくなる。僕のことだけを考えるようになるだろう」
言葉が言い終わらないうちに体の自由が効くようになり、男を弾き飛ばした。
唇を奪われたとかそんなことはこの際どうでもよかった。
ただ自分の身に何が起こったのか整理するだけで精一杯だった。
「何をしたの?」
「少し、僕の力を分けたのさ。これで君は老いない、死なない体になった。いわゆる不老不死だ。君に似合う男はこの先僕だけだろう」
「不老不死……?」
まさに人間が成し遂げられるはずない課題だった。
それでも説得力があるのはこの異常なまでの体の軽さ。
宙にでも浮けそうなほどまでに軽い。
「おっと、自己紹介がまだだったね。僕の名前はヒース。いずれ歴史に名を刻まれる男だ。そして君はいつしか僕を求めにやってくるだろう。その時まで僕は気長に待っているよ」
このままでは私の生活が壊れる。
そう思って軽くなった体を男に向け、精一杯の力で拳を握り上げた。
けれど、その拳は瞬く間に握られて、包みこまれる体制となった。
「大丈夫。これで僕と君の時間は永遠だ。焦らなくても逢瀬の時まで存分に僕を想ってくれ」
「ふざけないで!」
振り返ると、そこには誰もいなかった。
まるで最初からいなかったかのような静けさが戻ってくる。
ただ身体中に響き渡る鼓動の音。
それがこれからの未来を予感させていた。
私はきっと「普通の幸せ」を手に入れられないと。
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