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そして……崇さんの考えている将来像について、私に内緒だよといいながら初めて教えてくれた。
「血族経営をできるだけ脱したいとずっと崇君は主張しているけど、すぐには難しいだろう。僕の考えを実践するのはあと一年後、彼が本当に上に立ってからだ。今は彼のお父上とその周辺がこの榊原を支配しているからね。将来を見据えて僕は彼に種まきをするだけだよ。崇君が干からびないように君が水をあげてね」
「水なんてあげられません。お茶かコーヒーなら今日みたいにあげられますけど……」
「そうじゃないんだよ。水をあげてほしい。肥料もたまにあげてね。そうしたら僕の蒔いた種から芽が出て花が咲く」
私にゆったりと笑いかける専務がそこにいた。その時は言っている意味が全くわからなかったが、忘れかけた頃になって、その意味に気づかされることとなる。
* * * *
御曹司がいなくなって二ヶ月。もうすぐ総会だ。
役員室のフロア周辺は物々しい雰囲気に包まれている。総会前はいつもそうだ。役員人事があり、駆け引きが始まっている。しかも御曹司がいないので、隠すことなく今年は口に出す人もいる。
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