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専務はご親族の経営されている会社へ移ると説明してくれたのだ。
ところが、私がそのことを言うと怖い顔をされた。
「君はまだ若いんだし、辞めるのだけは絶対ダメだよ」
あっけないくらいすぐに却下された。
「それに、前に言った僕との約束を忘れてもらったら困るよ。いずれ君にはやってほしいことがあるからね」
「何ですか?」
ニヤリと笑う専務は私にこう言った。
「僕の種を蒔いた花壇に水と肥料をやるのを忘れないで欲しいね」
「何ですかそれ?わけがわかりません。それに私にはそんなこと出来ません」
「出来るようになるよ。そのうちわかる。少しだけ辛抱して待っていなさい」
そう言い残して去ってしまわれた。
専務が辞められたその日から、今度は秘書室内で私への圧力が強まった。
崇さんは他の秘書には無愛想だったのに、専務秘書の私には専務の手前だと思うが、気を遣って優しかった。そのせいで私は以前から、黒沢さんら彼を狙う秘書達に妬まれていた。別に何もないのに逆恨みもいいところだ。
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