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いずれ彼の方が上司になるのだろうが、専務に敬意をもって接してくれているのだ。だから、必ず私を通して部屋に入る。
無断で入ったりしないのだ。そういうところはいつ見ても律儀だ。
彼を通すと、私はいつも通りコーヒーをドリップしに給湯室へ入った。すると、常務理事の秘書をしている黒沢さんがいた。先ほど私達の様子をここから覗いて見ていたのには気づいていた。
「黒沢さん、瀬川常務は外出ですか?」
彼女は私をじっと見ながら壁にもたれてコーヒーを立ち飲みしている。
私の一年上の先輩だが、系列銀行頭取のお嬢様。総帥が実は目をかけていると本当か知らないが陰で噂がある。
つまり、御曹司のお相手候補の一人ということだろう。そして、彼女自身も崇さんが大好きなのを隠さない。
「そうよ。崇さんは急に来たの?」
「そうですね」
「そういえばあなた、斉藤君とはどうなの?」
斉藤君とは私の交際相手の斉藤伸吾のこと。彼も秘書課勤務。黒沢さんは伸吾と同期で親しいし、私のことも聞いているだろう。意地悪そうな目が輝いている。
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