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 十八歳。すべてに鬱屈し、すべてが輝いて見えた、あの忌まわしくも愛しい季節。あの頃、私たちに怖いものなど一つもなかった。  私の隣にはいつも時雄がいて、時雄の隣にはいつも私がいた。たったそれだけのことで、私の度胸は何倍にも膨れ上がり、この世に思い通りにならないことは一つもないという不思議な確信さえ湧いてきた。今になって思い返してみると、それは単なる世間知らずな若者の思い上がりに過ぎないのだけれど。  時雄は私にいろいろなことを教えてくれた。酒の味を教えてくれたのも、車の運転の仕方を教えてくれたのも時雄だった。それから殺人も。  初夏。人気のない夜の森の中で私は生まれて初めて煙草を吸った。涙目になって咳き込む私を見た時雄は、肩を丸めてくっくと笑った。黒い森の中、オレンジ色の小さな光に照らされていた彼の顔を、私は生涯忘れないだろう。  高校三年生だったあの頃、私は日高時雄という男に恋をしていた。
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