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ただ、ひとつひとつをいちいち整理していては何ひとつとしてらちが明かないというのだけは事実だ。もしかしたら祖父母や純弥を身籠った母親も宇宙人のターゲットにされているかもしれない。いつかの妄想にすぎないが、ある日この地球に宇宙人が侵略してきて、世界を守るために自ら立ち上がるといった展開を望んだことがある。現実では何も手に入れられない落ちこぼれが自分に、もしも光があてられるとしたら――のあり得ない妄想だ。それがいまこうして目の前で繰り広げられている。
現実で何も手に入れられない奴は、その妄想が現実になっても何も手に入れられないままなのだろうか……。いや、そんなはずはない。そんなことがあっていいわけがない。
――これはきっと、俺に何かと戦えという啓示だ。
その何かがなんであるかは依然としてわからないままだが。
それからしばらく歩いた。純弥が知るかぎりでは寂れたシャッター街も、この世界では商店街としてそれなりの賑わいを見せている。祖父母の家はこの路地のどこかにある文房具屋の二階だったはずだ。
実家が文房具屋だったため、小さいころは文具のたぐいには困らなかったが、それを有効活用できていた記憶はないにひとしい。
先ほどのUFO事件などどこ吹く風といったふうに、かつての商店街はパンの香りと野良にしては肥った猫と、無関心な大人であふれている。実際に純弥自身も幼いころに自分に関心を向けてほしくてそういった作り話をしてみたが、大人がちゃんと耳をかたむけてくれたことなどなかった。
あの短パン小僧どもの話も、そうやって馬鹿みたいにあしらわれて忘れられ、のちに至極現実的な事件として、ようやく警察が動くのだろう。それはそれだ。
坂梨文具店という看板を探してみるも、知っている閑散としたシャッター街と、この人で賑わう商店街とでは、同じ地理でもまったく違った景色に見えて、まだ新しい記憶のなかで同じ色のシャッターが降りていた景色は、いまは建物ごとに色とりどりの商いが軒を連ねている。奴らに二十数年後のこの街の現状を教えてやりたい。
見知ったはずの街で迷子になっていると、知っている顔と目が合った。この商店街でも数年前までしぶとくシャッターを閉ざさずに駄菓子屋を営んでいた婆さんだ。老川という苗字で、純弥の一番古い記憶を掘り起こしてもずっと老いている姿しか思いあたらない。婆さんはこの時代からすでに純弥が知っている老いた婆さんだった。小さいころから妖怪ババアで知られていたこのババアは、もしかしたら産まれた瞬間から老いた婆さんだったのではないだろうかと疑う。
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