愛の短歌

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 今夜も冷えるな。  相変わらずだんまりか、美夜子。  マシンガントークの応酬が、俺達夫婦の真骨頂じゃないのか?   「歯ぎしりと鼾・寝言のマシンガン       隣家の犬も怯えて吠える」  なんだと?だからあのジョセフィーヌってワンコは、俺に懐かないのか!  しかし……美夜子は大丈夫なのか?もしかして、毎晩寝不足だったとか? 「眉毛抜き まつ毛も抜いていい男      それでだめなら鼻フックあり」  エグい鼾の止め方だな……。だから眉毛が薄くなっていたのか。事務員に麻呂って呼ばれていたんだよ、俺は。    ずっとこうやって話していたかった。つまらん話に馬鹿笑いしてくれるのは、美夜子だけだったからな……。お互いに皺くちゃになっても、ヨボヨボになっても、それだけは変らないって信じてた。  永遠なんてないんだな……。  なぁ、美夜子。俺がいつまでも一人芝居していたら、憐れんで化けて出てきてくれるか?  きっと、呆れているだろうな。  今日は美夜子の誕生日だったな。  命日なんて、俺は手を合わせないぞ!俺から美夜子を奪った憎い日だからな。  けど毎年誕生日には、短歌を贈る。  シャバシャバな俺の短歌だけど、受け取って天国で笑ってくれよ。  『愛の短歌』だ。 「待っていろ かなづちの君は三瀬川         俺がおぶって渡る日まで」                 完 ・三瀬川 三途の川の別名 ・かなづち 泳げない人                    
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