愛の短歌

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 会社から帰った俺は、意気揚々とおでん作りを始めた。  煮込む時間がこんなに長いとは……圧力鍋を使うと良い?なんだ、圧力鍋って。偉そうなうちの社長のような鍋か?  社長のようなタイプの鍋ならば、拗らせるに決まっているから普通の鍋にしよう。  大根は時間ないからもういい、コンニャクもいいかな、じゃがいももいらないな。  肝心なのはカニカマだ!これはたくさん入れておく。上手くひよひよになれよ!  今、夜中の12時過ぎだ。ミシュランへの道はなかなか厳しい。が、出来は悪くない。  鍋を覗くと、カニカマがガッツリひよひよしているし、まわりの練り物もふかふかだ。 「美夜子、遅くなったけど晩飯ができたぞ!」  仏壇の前に置いた簡易テーブルを引き寄せ、ミシュラン星マイナス3つを並べて行く。 「思い出の海鮮おでんだ。どうだ、この安定のひよひよっぷりは」  写真立ての中の美夜子はいつものすまし顔で、じっと俺を見つめている。  わかっているさ、美夜子はもういない。  それでもあと少し、喧嘩させておいてくれよ。  美夜子の辛辣な短歌攻撃に撃沈した俺は、とっておきの愛の短歌を捧げて仲直りするって筋書きなんだ。  笑ってめでたしめでたし。  頭はイカれてないからな!気持ちの整理だ、整理、そう……整えているんだ、サウナと同じだ、ちっくしょー!  さぁ、海鮮おでんが冷めないうちに食べようか。夜中に食べるおでんもいいかもな。  
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