8/24
前へ
/81ページ
次へ
「どうしたの。遠慮なく選んでいいよ」  教授の言葉にはっとして、ふみこちゃんの面影は消し飛んだ。私は気後れしたようにメニューを眺め、か細い声で、 「先生と同じでもよろしいですか。私、よくわからなくて」 と答えた。教授は何がおかしいのか高笑いをして、 「そうだね、当然だよ」 と頷いた。  本当はわからないわけではない。私がつき合った男たちは小金を持ち、かつ女性に奢ることに特別の満足を感じるような類の連中だった。高校の頃から、私は彼らを通じて、それまでの私には無縁であった世界のことを知っていった。そういうことを知ることは彼らが私に使うお金以上に、私にとっては重要であったから。  私は修道院で用意されていたもの以外に、特別の口座をつくり、お金をコツコツとため続けていた。けれど、お金だけでは気づけないことがある。できるだけ私は、彼らにつき合い、彼らのアクセサリーになり、時には欲望のはけ口にもなった。  それは修道院ではけっして学ぶことのできないものだったから。
/81ページ

最初のコメントを投稿しよう!

24人が本棚に入れています
本棚に追加