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「さて、ゆっくりくつろいで。緊張を解いて。それからでいいよ、君の悩みを聞かせてもらうのは」  満足げな教授の表情。私は花のような笑顔をつくる。 「何だか、もうお腹がいっぱいになってしまいました」  教授の眼差しに卑しいものが走ったのを、私は見逃さなかった。視線が落ちている。私の身体の品定めをしている眼だ。 「君は箸の使い方が上手だね」  これはわざとではなく、本当に感心したように彼がつぶやいた。 「母はこういうことに厳しくて」 「最近の学生さんには珍しいね。お母さまはよく出来た方と分かる」  瞬間。私の頭に怒りが湧く。誰が、あなたなどに私の母の品定めを求めたというの?  そして我に返る。私は母のことを知りはしない。存在したことはもちろん間違いはないが、写真さえ手元にはないのだ。父も同様。自分の性質を鑑みるに、一体どちらに似ているのかとときどき考えることがある。どちらでもいいことだけれど、そういう空想がちょっとした慰みになることもあるのだ。特に誰かを手にかけた後は。  私の血がきっとこうさせているのだ、私の血は、なぜにこんなにも粘つくような執念を帯びているのか。もしかしたら、すでにこの世から消え去ったと思われる、父と母の何らかの恨みが練り込まれているのか。 「どうしたの、遠慮なく食べて」  気取った教授の言葉にまた我に返る。
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