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 私は自分からは意識的に話さなかった。こういうタイプの男は、実は自慢したいことが体内につまっており、チャンスさえ見かければ弾むようにその話が飛び出してくるのだろう。その聞き役、おだて役にまわるのがいいやり方に思えた。  高級な味。  美味しいと思うよりも高級な味としか感じない私。  舌鼓を打ちながら、いかにも感心したというように少しずつ箸で口に運ぶ。私にとっては高級な味。そういう感じ方しかできない自分を憐れとは思わない。むしろ、食事のうまさなど感じない方がいい。それは他のことも同じ。  今はブランド物のワンピースを着ているし、アクセサリーも。  子供の頃の「お下がり」は完全に克服した。  いかに生きるか。  この問題を、このような俗っぽい男が語るのが許せなかっただけ。  それだけで、私には十分すぎる理由があった。  機会は料理か酒か茶か。  そっとバッグの中の小さなスポイト状の容れ物を確かめる。  酒のときがやはり怪しまれないだろう。たくさん飲ませて、中座した隙を狙うのはいちばん安全。  もう少しつき合おうか。    
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