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「少し飲んでもかまいませんか」 「ああ、もちろん。君は成人しているんだろう? 何がいい」 「実は、日本酒が好きなんです」  教授は「ほう」と声に出し、 「いける口だね。……そうそう、悩み事は真剣に話し合った方がいいが、飲んだ方が滑らかに話せるかもしれないな」  私は俯いて微笑して見せる。  教授はすぐに自分のお酒を注文したが、私は食後がよいと伝えた。この男は飲んだのがすぐに顔に出るらしく、すぐに赤らんだ。  酔った男のぎらついた目つきが私は大嫌いだ。そこまで行かせたくない。  やがて膳も下げられ、私はナプキンをとって軽く口元をぬぐう。  一息ついて、顔を上げて見せる。  目線は下に。私の長いまつ毛がゆらゆらとしたほの暗い灯りの下でも、頬に影をつくっているのに違いない。 「先生、私、実は……」  私は決意を固めたような表情をつくって話しはじめた。  落ち着いた小部屋。趣味のよい調度。  この男には似つかわしくない、いえ、ちょうどいいのか。  そして私にも。
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