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「そうか。君の身の上は、私には想像を絶するよ」  あくまで教授としての、先生としての体面を取り繕ういやらしさ。 「こんなこと、話したのは先生が初めてです。どうしても言えなくて。でも、先生の講義をお聞きしながら、どうしてもこみ上げてきてしまって」 「そうか」  感じ入ったというように目を潤ませて見せる男。  私は、その目をまっすぐに見て、すっと涙を落して見せた。 「君」  慌てて私を見る男の顔が、本当にぼやけて見える。  涙は、都合が良い。 「あの、ちょっとお手洗いに。ふふ、お化粧を直したくて」  そう言ってバッグの持ち手を取り、席を立った。上品にしつらえられたふすまを開けて外に出て、誰もいないのを目で確認してから、そっと微笑む。ここまでは、完璧だった。
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