15人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ
「そうか。君の身の上は、私には想像を絶するよ」
あくまで教授としての、先生としての体面を取り繕ういやらしさ。
「こんなこと、話したのは先生が初めてです。どうしても言えなくて。でも、先生の講義をお聞きしながら、どうしてもこみ上げてきてしまって」
「そうか」
感じ入ったというように目を潤ませて見せる男。
私は、その目をまっすぐに見て、すっと涙を落して見せた。
「君」
慌てて私を見る男の顔が、本当にぼやけて見える。
涙は、都合が良い。
「あの、ちょっとお手洗いに。ふふ、お化粧を直したくて」
そう言ってバッグの持ち手を取り、席を立った。上品にしつらえられたふすまを開けて外に出て、誰もいないのを目で確認してから、そっと微笑む。ここまでは、完璧だった。
最初のコメントを投稿しよう!