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講義が終わった後、教壇を降りて出ていこうとする教授を私は追いかけた。
怪訝そうな表情が浮かんだ。私は少しうつむいて上目遣いにもじもじする。
「何だね」
低い声だが声音は優しい。
「あの、今日の講義で『人はいかに生くるべきか』ということが宗教の核心だと先生はおっしゃられました。私は……実はとても悩んでいることがあって、自分の生き方について見直したいと考えています。どうか、どうか相談にのっていただけませんか?」
教授は興味なさげではあったが、紳士気取りの手前、無下にはねつけるようなことはしない。
「今日はこの後会議もあるからね。でも明日なら……3限で講義は終わりだ」
私はぱっと顔を輝かす。
「本当ですか? 私もこの後はアルバイトがあるので……。明日3限のあと、研究室にお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「ああ、お待ちしてますよ」
そういうと教授はくるりと背を向けて立ち去った。
真っ白い衣装には意味がある。
この衣装を深紅に染める日を楽しみにしてきた。
私は昨日とはうって変わった服装になる。きつい三つ編みは肩先まで流し、丁寧に櫛を入れる。もとが艶の良い髪なのだし、まとまりもよいのだ。整髪剤も要らないくらい。そして、ほのかにアロマをしのばせる。ほんの少し、香るかどうかくらい。
私の肌はすっぴんでも抜けるように透明感がある。滅多にお化粧をしていなかったからだ。修道院育ちにメイクをする余裕などあって?
それでも今日は肌の白さや肌理を生かしながら丁寧に下地クリームとファンデーションで整える。まつ毛はもともと長い。だからアイメイクは控えめにしている。コンシーラーで目の下に少し青みを足す。悩める女学生らしく見せるために。
頬紅もあるか無きかの薄い紅色。
いちばんの決め手は口紅だ。薄い唇に少し暗めの紅色。きっとこの方がワンピースの色にも映えるから。
翌日、3限までの授業は無視して、3限の後に教授の研究室に向かう。
気がはやったのか、教授は留守で、研究室に鍵はかかっていなかった。
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