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私はためらわず中に入る。少し傾き始めた陽射しが真っすぐ室内に入りこんでいる。重々しい机があることを─いつかのように─連想したけれど、今の研究室は金属の軽い机が置いてあり、イスも普通のビジネス用デスクチェアだった。
本棚が向かいにあり、ガラスのケースがついている。明りを点けていないので、影の部分は読みづらい。古そうな本が多かった。ガラスケースに収まっていても、色が褪せて、開いたら紙魚がたくさんありそうだ。
別の棚の影でよく見えないが、魔女裁判にかんした本が数冊あることに気づいた。
多くの生娘を魔女と烙印し虐殺した中世ヨーロッパの黒い歴史。
こんな本を持っていることが彼の性癖を示しているようで、私は軽蔑の舌打ちをした。
音もなくドアが開いた。今の舌打ちの音が聞こえたかと焦りを思えたが、入ってきた教授はいかにも穏やかだった。
明らかに、私の姿を見て驚いている。
「君は……ここの学生ですよね。何かご用ですか。申し訳ないが、ご用事ならアポを取ってくだされば」
私はにっこりと微笑む。
「先生、何を言っているのですか? 昨日お約束をした者ですが」
しばらく呆けたのち、ようやく教授は思い当たったようだった。
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