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「近場でよい店を知っているよ。教授仲間ともよく行く店だ」  心なしか教授は弾んだ声を出す。 「そうですか。申し訳ないです。私なんかの、それも無理なお願いのために」 「いいから、いいから」  教授は通りでタクシーを拾って、行先を告げる。さすが、お金を貯めこんでいるものだと私は唇を噛む。  行先は神楽坂の見るからに上品な和食のお店だった。風情のある狭い戸口。季節の花が活けられている。淡い灯り。教授は引き戸を開けた。 「急なんだが、部屋は一つ、空いているかね」 「あら、先生、ちょうどよかったですわ。今、一つキャンセルが入りましたの」  薄桃色の和服を上品に着こなし、割烹着をつけた中年の女性が明るい声で答えた。 「じゃあ、そこへ」 「先生」  私は細い声でそっとささやく。 「あの、私なんかには不釣り合いです。こんな立派なお店」 「何、大丈夫さ。ここの個室は広いけれど、二人でも大丈夫だからね」  確かに薄黄色の和紙で出来たかのような淡い光を放つ室内は、ソファが3つ用意されていてとてもゆったりしている。障子の窓はフェイクだ。灯篭のような灯りが下がっている。  教授はあらためてしみじみと私の装いを見た。確かに、どんなお店にも対応できるような品の良さでまとめている。
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