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「えっ……何ですか?」
「もちろん、クリスマスプレゼント」
「……」
「それに、先月のお詫びも兼ねて……じゃなくって、その分も倍にして」
ニッコリ笑う。
「えーっ……ありがとうございます……開けてもいいですか?」
「どうぞ」
丁寧に包み紙をはがし、箱を開ける。入っていたのは、アロマオイルだった。
「……覚えていてくれたんですか?」
あれは、静岡のホテルの部屋だった。
置かれていた、ラベンダーのアロマオイル。その香りが、とても気に入っていたのだ。
それにも増して、半年も前の、あんな些細なことまで覚えていてくれたことが嬉しかった。
「ありがとうございます」
ペコリとお辞儀をした菜摘は、アロマオイルの小瓶を大切に箱の中に仕舞うと、今度は自分の鞄から小さな包みを取り出し、
「私からも」
と、慶一に差し出した。恥ずかしくて、視線を合わせずに。
「えっ……俺に?」
「はい」
慶一が受け取ったのを感じてから、そっと彼を見る。
「開けていい?」
「……はい」
包装紙を、破かずに丁寧に開ける。
さらに中の箱を開けると、ブランド物のハンカチが顔を出した。
「……ありがとう。こんないい物を」
広げて見る慶一。
「あの、一応、お誕生日おめでとうございます、だったんですけど、クリスマスも兼ねてってことで」
菜摘は笑った。
慶一も笑いながら箱に仕舞ってから、真面目な顔つきになって、
「菜摘ちゃん、ごめん、これ……」
「あ、わかってます。洗濯は私が持って帰って家でしてくるんで」
「えっ、いや、それじゃあ……」
「大丈夫です」
指でオッケーを作って見せた。
(慶一さんが使ったハンカチに触れられるしね……)
なんて内心思いながら。
楽しいイブの食事だった。
1カ月もモヤモヤしてたのは何だったんだろう。
これ以上、欲をかかなければ……。
(今の関係が、一番いいんだ)
レストランの前で別れ、帰っていく慶一の背中が見えなくなるまで追いながら、菜摘はそう自分に言い聞かせていた。
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